当クリニックの予防接種について

肺炎球菌ワクチン

予防接種イメージ

肺炎球菌は肺炎の原因菌として最も多い細菌です。肺炎に罹患しても多くの場合は適切な治療によって改善し治癒しますが、高齢の方や基礎疾患のある方は命に関わったり、入院生活や安静で身体機能が低下したりすることもあります。

肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による肺炎などの感染症を予防し、重症化を防ぎます。
年齢にかかわらず肺炎球菌の罹患リスクが高いと考えられる方にはワクチンの接種が可能になっています。65歳以上の高齢者や心筋梗塞や狭心症などの心臓の病気、喘息やCOPDなどの呼吸器の病気、糖尿病、腎臓の病気などの持病を持っている方、脾臓摘出を受けた方には接種が推奨されています。

高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンの定期接種は、平成26年(2014年)10月1日から開始され、平成31年4月に経過措置期間が延長され、令和2年度から令和5年度までは、該当する年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳となる方と、60歳から65歳未満の方で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に大きな障害のある方(身体障害者手帳1級相当のかた)、HIV感染により重度の免疫機能不全状態にある方が対象です。使用されるワクチンは23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)のみです。初回接種のみが対象で、既に過去23価肺炎球菌ワクチンを接種したことがある方は、対象とはなりません。

なお定期接種対象外のかたの接種も可能です(全額自己負担)。

肺炎球菌ワクチン初回接種から時間の経過とともに抗体の活性は緩やかに低下していくと考えられます。そこで再接種の効果が期待されるわけですが、その効果についてまだ十分な知見の蓄積はありません。ワクチンを前回の接種から5年未満で接種した場合、注射部位に強い痛みが出ることがあります。

肺炎球菌ワクチンは生ワクチンではないので、摂取しても肺炎球菌感染症になることはありません。接種後7日後には他のワクチンを接種することが可能です。

令和5年度高齢者肺炎球菌感染症の予防接種のお知らせ

インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンイメージ

インフルエンザの予防対策で最も効果が高いとされているのがインフルエンザワクチンです。1回の接種でより有効にしたい場合は、接種時期も見極める必要があります。

インフルエンザは、日本では12月~3月の期間にかけて流行します。1回のワクチン接種による持続有効期間は約5ヵ月、また接種後に効力が得られるまでに2週間程度はかかります。そのためワクチンの効果をできるだけ高くしたい場合は、流行のピークとなる1月より前、12月中旬までに接種を終える必要があります。

コロナウイルスの流行に対する感染対策で、インフルエンザウイルス感染流行も抑えられましたが、結果的にインフルエンザウイルスへの免疫が落ちている方が増えています。インフルエンザワクチン接種の利益があると思われます。

新型コロナウイルスワクチンについて

2023年8月現在の見解をまとめます。

発症予防効果について

新型コロナウイルスイメージ

現在主体になっているメッセンジャーRNAワクチンは、2回目接種を終えるとおおむね90%以上の高い発症予防効果を示していました。(厚生労働省のHPより)
ただ感染予防効果は、周りの人がどれくらいワクチンを接種しているか、感染状況、変異株によっても左右され、初期のデータを、未来に適用していくのは難しくなっています。
ワクチンの発症予防効果が高くても、周囲にたくさんウイルスがある状態であれば、ウイルスに接する機会が多くなり、感染に至ってしまうことがあります。
またワクチンを接種しても、または一度感染しても抗体は段々減ってきますので、ある程度時間がたてば、再度感染することは考えられます。

オミクロン株以降、高い感染性を有す変異株の流行しており、ワクチンを打っていても感染する、いわゆるブレークスルー感染がまれならず、経験されるようになりました。
ワクチンによる感染予防効果はあるものの、変異株の出現、高い流行状況、ワクチン接種から時間がたっていることなどの結果、予防効果は当初より弱まっていると考えられます。
しかし、オミクロン以降であっても、予防効果は完全ではありませんが、確認されています(国立感染症研究所が2022年1月に収集したデータより)。予防効果を維持するためには、抗体の量を維持しておくことが必要と考えられ、前回のワクチン接種から、ある程度時間がたったら再接種を行うことが有効かもしれません。

2022年8月から従来株に由来する成分とオミクロン株に対する成分の2種類を組み合わせた「2価ワクチン」の接種が続けられてきました。しかし現在従来株はほとんど見られなくなり、2種類組み合わせることで現在流行している株への免疫誘導力が低下する可能性も示唆され、2023年秋よりオミクロンXBB.1系統の株に対応したワクチンを用いることになっており、より高い中和抗体価の上昇とそれによる重症化予防効果、発症予防効果の向上が期待されます。

重症化予防

流行当初、著名人も重症肺炎に伴う呼吸不全から亡くなられたという報道もあり、恐れられていました。オミクロン株流行以降、通常の風邪と大きな差がなく、肺炎を起こすことなくなおってしまう方が多くなりました。そのなかでもいまだに死亡例の報告もあります。
石川県、茨城県、広島県のデータを使用し、2022年1月1日~2月28日に新型コロナ感染者11万9,109人を対象に、年齢階級別、ワクチン接種歴別に重症化率・致死率を示した報告では、ワクチンによる重症化予防効果が示されています。60歳未満でワクチンを3回接種していると、基礎疾患にもよりますが、命の危険は極めてまれでないかと予想されます。
イスラエルからの報告では4回目のワクチン接種で感染は減らせなかったが、重症化リスクは減らしたとされます。感染予防効果は、ワクチン接種後おとろえていきますが、重症化予防は保持されているともされます。(Protection by a Fourth Dose of BNT162b2 against Omicron in Israel Yinon M ら N Engl J Med 2022; 386:1712-1720)
結論としてワクチン接種による重症化予防効果が期待できます。

Long COVID

新型コロナウイルス感染の可能性がある、または感染が確認された人に、COVID-19 の発症から 3か月以上(少なくとも 2 か月以上)何らかの症状が残存し、他の診断では説明できない状態を long COVID(post COVID-19 condition、postCOVID-19 syndrome)と定義されます。三大症状としては、息切れ、認知機能障害(物忘れ)、倦怠感が挙げられますが、そのほか、200 以上の症状の報告があり、胸痛や会話困難、不安感、抑うつ状態、筋肉痛、発熱、嗅覚・味覚異常などが含まれています。
コロナウイルス感染後に続く後遺症と考えていただいたらいいと思います。
イスラエルで実施された long COVID とワクチン接種との関連に関する研究(ファイザー製、成人での研究)では、2回以上ワクチンを接種している場合、 発症予防だけでなく、long COVID の予防効果も認められるとされます。英国での研究でも新型コロナウイルスワクチンを2回以上接種した方、1 回しか接種していない方、ワクチン未接種の方に比べて、新型コロナウイルス罹患後に28 日以上症状が持続する割合が約半分であったとされます。新型コロナウイルス感染症後遺症に対してもワクチンの効果が期待されます。

一度かかったら

ニカラグアでの研究から、感染しても、時間がたったり、変異株がおきたりするとまた感染することが報告されています。現在流行しているタイプの株においても発症予防効果は過去に感染したことがある,ワクチン接種,感染+ワクチンによる免疫(ハイブリッド免疫)のいずれでも顕著な差は認められなかったとされます.過去に感染していても、追加でワクチン接種をすることで感染防御力は向上するようです.そのため、一度感染しても、時間がたつにつれて、免疫が落ちてくるため、時間が経過した後、再度接種することが有効です。どれくらい時間が経ったら、ワクチン接種を受ける利益があるかについては、明確なデータはありません。

総合してワクチン接種は予防効果、重症化予防に意義があると思います。過去にワクチン接種を受けた人、すでに感染したことがある人でも、時間が経過したら再度接種する意味がありそうです。流行がつづくかぎり、今後も変異する株に合わせて、定期的にワクチン接種を繰り返すことになるのではと思います。

鳥取市の新型コロナワクチン接種について

帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹イメージ

帯状疱疹は、昔かかった(多くは子供のころ)水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスが、長年体の中に潜んでいて、免疫力の低下に伴い、再活性化しておこります。特徴的なぶつぶつがでて、痛みがでます。ぶつぶつは体の片側(正中を超えない)に帯状に(方言で胴巻きといわれます)、赤みを伴った水膨れでやがて破れてかさぶたができます。痛みは長く残り、生活に支障をきたすことがあり、帯状疱疹後神経痛といわれます。
コロナ禍後に、帯状疱疹が増えていると話題です。やや若い方にも増えている印象ですが、確定的なデータはまだありません。運動不足やストレスなどが原因といわれています。この帯状疱疹を予防するワクチンがあります。ワクチンの種類は昔からあるワクチンと最近発売されたものがあります。帯状疱疹予防目的にワクチン接種をする場合、目安として50歳以上の方が受けたらよいとされています。

弱毒生水痘ワクチン

昔からあるワクチンです。水疱瘡の予防に使われてきましたが、帯状疱疹の予防にも使えます。弱くしてありますが、活性のあるウイルスですので免疫抑制状態もしくは免疫抑制薬を使用している場合、癌の治療中の方は使えません。安価(約7000円)ですが肝心の予防効果に乏しく、持続期間も短い(5年間、50%〜60%帯状疱疹の発症を予防)とされます。
当クリニックでは弱毒生ワクチンより下記の不活化ワクチンをお勧めしています。

シングリックス:不活化ワクチン

最近発売開始となった不活化ワクチンといって、生きているウイルス成分はないので、水疱瘡を発症することはありません。高価(1回約22,000円)で、2回の接種が必要ですが、帯状疱疹の予防効果が非常に高く、9年間は持続するといわれます。筋注でコロナワクチンと同様に発熱や局所の痛みが結構な頻度で起こります。

帯状疱疹に罹患すると仕事できないくらい痛むことが多く、また後遺症が残る方もしばしばです。ワクチンによる予防もぜひご検討ください。効果の点ではシングリックスのほうがよいでしょう。なお万が一帯状疱疹になった場合は、早期に抗ウイルス薬と鎮痛薬を飲んだほうが良いため、できるだけ早く病院を受診しましょう。

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン

子宮頸がんは年間約1万人が罹患し、約2,800人が死亡してします。特に50歳以下の若い世代での発症が問題になっており、30代の若い方でも発症しています。
子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。子宮頸部にこのウイルスが感染するためで、性交渉によって感染します。性行為を介して咽頭や陰茎、直腸に感染し、その部分の癌の原因になることもあり、男性には無害というわけではありません。
性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、HPVに感染していると推計されています。HPVに感染しても殆どが治癒しますが、そのうち一部の女性が将来高度前がん病変や子宮頸がんを発症します。通常癌の発生までは数年~数十年要しますが、前がん病変の状態には10代でもなりえます。前がん病変の状態では、症状がなくがん検診を受診しないと気付くことはできません。検診は100%でないため、子宮頸がんに至っても見逃される可能性は0ではないですし、検診で見つかって治療をしても再発、転移してなくなる方もおられます。
またがんが見つかった場合、子宮摘出に至るため、将来子供を産むことができなくなります。ごく早期の癌、もしくは前がん病変の段階で見つかった方は、円錐切除といって、ウイルスが感染した子宮の一部を切り取る手術がなされますが、不妊、流産のリスクを高めるため、決してリスクがないわけではありません。予防することに越したことはありません。
このワクチンはHPVに感染する前に接種し、感染を予防するのが目的で、まだ性交渉を行っていない時期に接種する必要があります。すでに感染したウイルスを排除する効果はありません。年齢を重ねるにつれて性交渉の機会も多くなるため、できるだけ20歳未満でのワクチン接種が望まれます。予防効果は高く、定期接種が進んだ海外の国では、子宮頸がんは大幅な減少を見ています。

ワクチンは現在3種類あり、有効なウイルスの型が異なっています。
HPVの中で、HPV16型、HPV18型は特に前がん病変や子宮頸がんへ進行する頻度が高く、スピードも速いと言われています。
サーバリックスはこの16型と18型に対して効果をもつワクチンです。免疫を強く誘導し20年以上抗体を維持してくれるため、子宮頸がんの予防効果は高いといえます。一方で副作用がやや目立ち、局所の痛みやだるさが多く見られます。
ガーダシルは6型、11型、16型、18型に対して効果のあるワクチンです。6型、11型は性感染症といえる尖圭コンジローマの原因となります。子宮頸がんに加えて尖圭コンジローマの予防効果もあります。痛みなどの副反応もサーバリックスよりマイルドとされています。予防効果も決して低いわけではありません
サーバリックス、ガーダシルの子宮頸がんの予防効果は70%程度とされます。
シルガード9はガーダシルが対応した6型、11型、16型、18型にくわえてさらに5つの型(31、33、45、52、58型)にたいして予防効果があります。子宮頸がんの予防効果は、より高く、90%程度とされています。局所の腫れや痛みはガーダシルより強いようですが、全身的な副症状について差はありません。

日本では、平成15年(2013年)6月から、副反応問題のため接種勧奨の差し控えが約9年続いていました。しかし、上記のようにHPVワクチンの効果と安全性に関する多くの知見が得られたため、令和4(2022年)年4月より定期接種の積極的接種勧奨(対象者にワクチンの接種券やワクチンの効果や安全性に関する内容のリーフレットが送られること)の再開と、情報が届かなかったために接種機会を逃した女性への無料キャッチアップ接種が開始となりました。定期接種の対象は小学校6年生から高校1年生相当の女子ですが、無料キャッチアップ接種の対象者は、平成17年度生まれ(令和4年度に25歳になる学年)までの女性が3年間カバーされることになりました。

シルガード9も公費で接種可能となりました。シルガード9で接種を開始する方は、1回目の接種を受けるときの年齢によって接種のスケジュールが異なり、合計2回または3回接種します。合計2回の接種で完了できる方は、1回目の接種を小学校6年生の年度から15歳の誕生日の前日までに受け、その後、5か月以上あけて2回目の接種を受けた方です。1回目を15歳になってから受けた方は、その2か月後に2回目、6か月後に3回目を接種します。いずれの場合も、1年以内に規定回数の接種を終えることが望ましいとされています。

今後接種回数の推奨は変わる可能性もあります。

鳥取市の子宮頸がん予防(HPV)ワクチン接種について