心臓リハビリテーションとは

心臓リハビリテーションイメージ

リハビリテーションというと脳梗塞で麻痺が残った方や、スポーツ選手で大きなけがをした方が行うイメージが強いかもしれません。しかしリハビリテーションの本来の意味はもっと深く、広いものです。病気やけが、どのような原因であっても、治療を受けた後「社会復帰」のために行う訓練を総称し「リハビリテーション」といいます。 「re(再び) - habiris(適した)」というラテン語の語源からきており、障害を負う前と変わらない水準の生活に復帰することをめざします。
急性心筋梗塞や心不全など心臓病でも、発症後多くの場合心機能は低下し、すぐに以前と同じ生活や活動はできません。薬物治療、手術治療とともに、運動療法、食事の見直し、自分の病気についての学習、社会的サポートの導入や調整、心理面でのカウンセリングなど包括的に治療・介入を行っていく必要があります。それらを組み合わせて最大限利用し「疾病の管理」をしながら以前と同じような生活に「復帰する」。これが包括的心臓リハビリテーションです。

カテーテル治療により、動脈硬化で狭くなったり詰まったりした血管を風船やステントを使って広げたわけですが、その部分だけを治療したにすぎません。そもそもの原因である動脈硬化の悪化を防がなければ、狭心症や心筋梗塞が再発してしまう可能性が高いです。また低下した心機能のまま普段と同じ生活をしようとしても、心臓が音を上げて心不全の悪化につながったり、怖がって安静にしたままでは心肺機能は大きく低下したりしてしまいます。狭心症や心筋梗塞でカテーテル治療が終わっても、それで終わりではありません。確かにひと段落してほっとされているのかもしれませんが、むしろ社会復帰・リハビリテーションの始まりだと思っていただきたいです。

包括的な心臓リハビリテーションを行うことで、心臓病の再発予防、QOLの改善、運動能力の改善が期待できます。
2021 年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインにおいても急性心筋梗塞、安定狭心症、心不全、心臓手術後などの疾患で心臓リハビリテーション導入を考慮するように勧められています。

2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン

心臓リハビリテーションの適応

以下の疾患が、心臓リハビリテーションの保険適応となっています。

特に年齢制限などはありません。
※疾患によっては、保険適応の条件があります。

  • 急性心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心臓の手術後:冠動脈バイパス術後、心臓弁膜症術後など
  • 心不全
  • 大動脈疾患:大動脈瘤術後、急性大動脈解離術後など
  • 末梢動脈疾患:足の動脈が動脈硬化で狭くなる病気
  • 経カテーテル大動脈弁置換術後

心臓リハビリテーションの効果

運動能力の改善

運動療法により持久力や筋力が改善します。楽に動けるようになります。

冠危険因子の改善

運動療法や生活習慣の改善により、動脈硬化の原因となる冠危険因子(高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満など)のコントロールがよくなります。心臓だけでなく全身の動脈硬化の進行抑制につながります。

生活の質(QOL)の改善

運動能力の改善、運動耐容能の改善により息切れなく過ごせる範囲が拡大します。行動範囲が広がり、症状が生じにくくなり、不安が解消することで、QOLが改善します。

再発予防

心筋梗塞・狭心症の再発や心不全による再入院が減少し、死亡率が低下します。

自律神経や心理面への効果

抑うつや不安感が少なくなり、自律神経機能が改善します。自律神経の働きがよくなると血圧や脈が安定し不整脈が起きにくくなります。血管の機能の改善により血液の循環がよくなり、血栓(血液の塊)ができにくくなるとされます。

心臓リハビリテーションの流れ

当クリニックでは専門のスタッフによる包括的リハビリテーションを行います。治療後早い時期からの介入が効果的です。急性期病院を退院後、途切れることなくリハビリテーションを行うことが望まれます。
原則として週に3回、1回1時間のリハビリテーションを行います。疾患発症後5か月で一区切りになります。
初回は保険適応の確認、疾患の状態や合併症の評価を行います。

体組成計

定期的に体組成計により筋肉量の計測・フレイルの評価を行います。
「加齢により心身が老い衰えた状態」をフレイルといいます。
フレイルは早く介入して対策を行えば、健常な状態に戻る可能性があります。
フレイルに早く気付き、治療や予防をすることが大切になります。

CPX

心肺運動負荷試験 (CPX。呼気ガス分析を併用して行う運動負荷試験)を行います。CPXは安全かつ有効な運動療法の計画を立てるために、ぜひ行ったほうが良いです。原則として導入時、3か月後、5か月後に評価していきます。

2回目以降のリハビリテーション

症状や身体所見の確認の後、レッドコードなどを用いた準備運動ののち、以下を組み合わせて行います。所要時間は1時間です。

有酸素運動
負荷を個人にあわせて調整した自転車エルゴメーターで、自転車こぎの運動を行います。
筋力トレーニング
自重よる筋力トレーニング(椅子からの立ち上がりなど)、または空圧トレーニングマシーン(HUR)による筋力トレーニングをおこないます。
バランス訓練
転倒リスクの高い方、歩行運動が不安定な方に行います。
カウンセリング
心理状態の評価や、悩みや疑問をお聞きします。
学習
病気のこと、日々行う自己管理の方法、病気が悪くなった時におこる症状や対処法などについて、指導を受けていただきます。

保険適応である150日を過ぎると、いったん一区切りになります。病気の状態やご本人の希望によっては、週に1回程度に頻度を減らして、リハビリテーションの継続を行います。