- 9月 1, 2025
更年期前後の女性へ――「よく眠れてますか?」AHA“Life’s Essential 8”と心血管リスクの最新知見
更新日:2025年8月29日
はじめに:更年期の頃は心臓の病気は増えるの?
女性で更年期の頃は血圧やコレステロールも上昇しやすく、一般的に今まで低かった心血管病のリスクが急上昇する時といわれています。

アメリカ心臓協会(AHA)が提唱するLife’s Essential 8(LE8: 食習慣・身体活動・喫煙・BMI・血清脂質・血糖・血圧・睡眠)は、心血管疾患(CVD)の予防のためには、どのような項目に注目したらよいかと提案されたものです。。
先行研究では(https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/JAHA.123.030764)、このLife’s Essential 8(LE8: 食習慣・身体活動・喫煙・BMI・血清脂質・血糖・血圧・睡眠)スコアを高く保つと、その後の心血管病のリスクを抑えることができるとされています。この研究は平均年齢45歳の方を25年間も追跡したものです(スゴイ!)。

ちなみにこのスコアは80点以上が良いとされます。計算式は以下になります。(参考 https://www.knowdiabetesbyheart.org/wp-content/uploads/2022/10/Exhibit-5A_Lifes-Essential-8-1.pdf)
8項目の採点基準(成人):80–100「高(High)」/50–79「中(Moderate)」/0–49「低(Low)
1) 食事(Diet)
- 個人評価はMEPA(Mediterranean Eating Pattern for Americans)の点数を用いて換算: MEPA 9–10→100点/7–8→80点/5–6→50点/3–4→25点/0–2→0点。
※参考 https://www.rushu.rush.edu/sites/default/files/_Rush%20PDFs%20and%20Files/College%20of%20Health%20Sciences/tangney-mepa-screener-2022.pdf
2) 身体活動(Physical Activity)
- 週当たり中強度以上(MVPA)分を自己申告。強度換算:中強度1分=1分、高強度1分=2分で合算。
- 点数(成人):≥150分→100/120–149→90/90–119→80/60–89→60/30–59→40/1–29→20/0→0
3) ニコチン曝露(Nicotine Exposure)
- 紙タバコ・吸入型NDS(電子タバコ等)・受動喫煙を評価。
- 点数(成人):生涯非喫煙→100/禁煙≥5年→75/禁煙1–<5年→50/禁煙<1年 or 現在NDS使用→25/現在喫煙→0。
- 屋内で同居者が喫煙している場合は、(0点でない限り)−20点。
4) 睡眠(Sleep)
- 平均睡眠時間(自己申告)。
- 点数(成人):7–<9時間→100/9–<10→90/6–<7→70/5–<6 or ≥10→40/4–<5→20/<4→0
5) 体格(BMI)
- 標準基準(成人):<25→100/25.0–29.9→70/30.0–34.9→30/35.0–39.9→15/≥40→0。
- アジア人では閾値調整が提案:18.5–22.9→100/23.0–24.9→75/25.0–29.9→50/30.0–34.9→25/≥35.0→0
6) 脂質(Blood Lipids)
- 指標はnon-HDLコレステロール(mg/dL)。
- 点数(成人):<130→100/130–159→60/160–189→40/190–219→20/≥220→0。
- 薬物治療で到達した値の場合は −20点(残余リスクを考慮)
7) 血糖(Blood Glucose)
- 空腹時血糖(FBG)またはHbA1cで判定。
- 点数:糖尿病なし&FBG<100(またはHbA1c<5.7%)→100/前糖尿病(FBG100–125またはHbA1c5.7–6.4%)→60/糖尿病でHbA1c<7.0%→40/7.0–7.9%→30/8.0–8.9%→20/9.0–9.9%→10/≥10.0%→0。
- 前糖尿病に対する予防的メトホルミン等で正常化している場合は−20点も考慮(臨床判断)。
8) 血圧(Blood Pressure)
- 適切手技で測定した収縮期/拡張期で判定。
- 点数(成人):<120/<80→100/120–129 & <80→75/130–139 or 80–89→50/140–159 or 90–99→25/≥160 or ≥100→0。
- 薬物治療で到達した値の場合は −20点。
皆さんはどうでしたでしょうか。
上記の研究で、男性女性ともLE8の高得点を保つことが重要とはわかっていました
今回の研究は中年女性を対象に1996年に開始され、現在も継続中の縦断的多施設多民族研究「Study of Women’s Health Across the Nation(SWAN)」のデータを使用して女性における更年期移行期が心血管疾患リスクの変曲点、つまり急激に高まる時期であることを明確にしました。そのなかで睡眠の質にも言及しています。
- 対象:中年女性 約2,900人(平均46歳)を長期追跡。
- 評価:AHAのLE8スコア(食事・運動・喫煙/ニコチン曝露・睡眠・BMI・脂質・血糖・血圧)。
- 結果:スコアが高い、あるいは経過で改善した女性ほど、頸動脈の超音波指標(内膜中膜厚=IMT、動脈の硬さ=PWV、プラーク)で良好、さらに心血管イベントと全死亡が少ない。
- LE8の理想域(80点以上)に達している女性は5人に1人。21%しかいない。
Life’s Essential 8(LE8)スコアが高い女性ほど、血管の“老化サイン”が少なく、将来の心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中など)や全死亡のリスクも低いことが、女性の長期コホート研究で示されました。
特に血圧・血糖・喫煙対策・睡眠の4項目が重要とされます
睡眠の質と量が、長期の心血管イベントや死亡リスクとも独立して関連しているとされました。
- IMT(内膜中膜厚):頸動脈の壁の厚み。厚いほど動脈硬化が進んでいる目安。
- PWV(脈波伝播速度):血管の硬さの指標。速いほど硬くなっています。
上記は当院も含めてクリニックで容易にわかります。
項目別・今日からできるLE8改善
血圧が気になる方
- 家庭血圧(朝と寝る前)をまずはかりましょう。
- 家庭血圧のはかり方や生活療法のポイントは当院のWebを参照ください。https://tottori-cardiology.jp/lifestyel.html#anc06
- 加工食品を避けること、つゆや汁を残すことから始めてはいかがでしょうか。
血糖・糖尿病が心配
- 特定健診などでHbA1c,空腹時血糖を評価しましょう。
- 糖尿病が疑わしい方の糖負荷試験など精密評価も当院で行っています。
- 生活療法はまず体重減量(肥満のある方の場合)と間食の見直しがから始めてはいかがでしょうか。
- 階段ルール:2階分なら必ず階段!とすると週合計150分に近づきます
禁煙、電子タバコもリスク
- 電子タバコも避けたほうがよいです。
- 喫煙は美容の大敵でもあり、老化を促進します。
睡眠が浅い、途中で目が覚める
- 以下のポイントを意識してください。
- 朝に日光を浴びましょう(起きてから1時間以内)
- 就寝前 2時間はスマホ禁止。
- 夕食は寝る3時間前までに取りましょう
- 布団に入るのは「眠くなったら」いくようにしましょう
- 午後遅いカフェイン(コーヒー 紅茶 緑茶 ウーロン茶)禁止。麦茶がおすすめです。
- 日中の有酸素運動は夕方までに可能な範囲でおこないましょう。
- 瞑想もよいとされます。個人的には寝たまんまヨガがおすすめです。
さいごに
更年期はからだの転換期。でも、睡眠・血圧・血糖・喫煙対策を中心に“できること”をコツコツ積み上げれば、将来のリスクを下げられることがデータで示されています。気になる方は、検診結果(特定健診など)や家庭血圧の記録を持って、当院でご相談ください。